解約率を下げる前に、解約の定義を疑ってください
継続課金のサービスで解約率が高いとき、多くの現場はすぐ打ち手の話を始めます。
オンボーディングを改善しよう、休会制度を作ろう、解約前に引き止めよう。
その前に確認すべきことがあります。
いま見ている解約率が、本当に「解約」を表しているかどうかです。
私はモバイル通信のサブスクリプション事業で、顧客管理と継続率に日々向き合っています。
数字の定義を直しただけで、打ち手がまったく変わった経験が何度もあります。
■ 同じ「解約率」で、3つの違う数字が作れる
たとえば、月初に1,000人いて、月末までに50人が解約したとします。
【定義A】50 ÷ 1,000 = 5.0パーセント
【定義B】50 ÷(月初1,000+月中の新規200)= 4.2パーセント
【定義C】50 ÷ その月に更新日を迎えた600人 = 8.3パーセント
どれも間違いではありません。ただ、意味がまったく違います。
定義Cが最も実態に近い数字です。
そもそも更新日が来ていない人は、解約するかどうかを選ぶ機会がありません。
機会のなかった人を分母に入れると、解約率は実態より低く出ます。
新規獲得が増えている時期ほど、この差は開きます。
獲得を頑張るほど解約率が改善して見える、という現象が起きます。
■ 分解すべき3つの軸
定義を決めたら、次は分解です。全体の数字だけを見ていても打ち手は決まりません。
【1】契約からの経過月数
初月で辞める人と、12か月使ってから辞める人では、理由が違います。
前者は期待と実態のずれ、後者は必要性の変化です。
打ち手も、前者は申込み前の説明、後者は使い方の提案と、まったく別になります。
どの月に集中しているかを見てください。
たいていの事業で、特定の時期に山ができます。
【2】獲得したチャネル
同じサービスでも、どの経路で来たお客様かによって継続率は変わります。
価格の安さを訴求した広告から来た人と、比較記事を読んで来た人では、
そもそも期待している内容が違うからです。
チャネル別に継続率を出すと、
「獲得単価は安いが、継続しないチャネル」が見つかることがあります。
これが分かると、広告予算の配分の判断が変わります。
【3】解約の申し出方
自分から手続きをして辞めた人と、
支払いが通らずに失効した人は、分けて数えてください。
後者は、意思による解約ではありません。
カード情報の更新を促す仕組みを入れるだけで減ることがあります。
意思の問題として打ち手を考えていると、この領域にたどり着けません。
■ 定義を変えると、社内が混乱します
ここが実務上いちばん面倒なところです。
過去の数字と比較できなくなるため、
「先月より改善した」という報告が成立しなくなります。
対処としては、しばらく両方の数字を併記するのが現実的です。
新しい定義に切り替える理由と、旧定義での推移を並べて出し、
3か月ほどかけて移行します。
面倒ですが、間違った定義のまま打ち手を打ち続けるほうが、はるかに高くつきます。
■ 最後に
解約率は、下げるべき数字である前に、正しく測るべき数字です。
数字が正しくなると、やるべきことは驚くほど少なくなります。
全体を改善しようとしていたものが、
「初月で辞める人の、特定チャネルからの流入」のように絞り込まれるからです。
打ち手を増やす前に、数字を疑ってみてください。

