技術的に正しいのに戻される編集の話
技術的に正しいのに戻される編集の話 ——「なんかもう少し」の正体
動画編集を教えていると、必ずと言っていいほど聞かれることがあります。
「何がダメだったのか分からないまま、修正が返ってくる」
カットは繋がっている。テロップも入れた。色も整えた。BGMも合わせた。
自分では悪くないと思っている。それなのに戻ってくる。
しかも、返ってくる言葉が「なんかもう少し」だったりする。
私は元々テレビ番組のディレクターで、その後は広告のプロデューサーをしていました。
つまり、自分で編集していた時期と、上がってきた編集に修正を出していた時期の両方があります。
今日は後者、つまり「戻す側」から見た話を書きます。
編集を学んでいる方が一番知りたいのに、一番聞けない話だと思うので。
まず前提:戻す側は、理由を言語化できていない
これが根本の原因です。
発注する側も、なぜ違和感があるのか説明できていません。
何かが引っかかる。でもそれが何かは分からない。
だから出てくる言葉が「もう少しこう」「なんか違う」になります。
受け取った側は、当然こう考えます。
「好みの問題かな」
そして色味を変える。テロップの書体を変える。BGMを差し替える。
でも次もまた戻ってくる。
これが一番きついパターンです。何をどう直せば正解なのか分からないまま、手数だけが増えていく。
ただ、戻される編集には共通点があります。
ここから3つ挙げます。
1. 誰に向けた映像か、途中で変わっている
どういうことか
冒頭は「この商品を初めて見る人」に向けて作られているのに、中盤から「もう知っている人」向けの説明になっている。
たとえば商品紹介の動画で、
- 冒頭:商品名を出して、何ができるかを丁寧に説明する
- 中盤:急に「もちろん◯◯モードも使えます」と、専門用語が出てくる
作っている本人は、その商品のことを全部知っています。
だから「◯◯モード」が説明なしで通じると錯覚してしまう。
初見の人は、そこで置いていかれます。
戻す側には何が見えているか
戻す側もこれを言語化できません。
出てくる言葉は「なんか分かりにくい」です。
でも実際に起きているのはこれです。
「分かりにくい」と言われたら、まず視聴者の想定が途中で変わっていないかを疑ってください。
どう直すか
編集を始める前に、一行だけ書いておくと変わります。
この動画を見るのは、◯◯を 知らない 人
これを書いておいて、編集中に何度か見返す。
それだけで、途中で相手が変わることは激減します。
2. 見せ場より前に、間延びしている
どういうことか
「最初の数秒で判断される」という話は、よく聞くと思います。
それは本当です。ただ、実務で戻される原因になるのは、もう少し後です。
問題が起きるのは、こういう構造のときです。
- 0〜5秒:つかみ。ここは頑張って作ってある
- 5〜25秒:説明・前置き・自己紹介
- 25秒〜:一番いいところ
編集した本人は、前置きが必要だと思っています。「説明しないと分からないから」と。
でも戻す側は、20秒目で飽きています。
そして一番いいところまで辿り着かないまま、「なんか長い」と言う。
なぜ本人は気づけないのか
自分の素材は、何十回も見ています。
一番いいところがどこにあるか、頭に入っている。
だから「あと少しでいいところが来る」と思いながら見てしまう。
初めて見る人には、その「あと少し」がありません。
どう直すか
一番効くのは、順番を入れ替えてみることです。
一番いい部分を先に出す。説明は、その後に回す。
それだけで通ることが本当によくあります。
「説明しないと分からない」と思っている部分の多くは、実は後回しにしても分かります。
一度、思い切って前置きを全部削ったバージョンを作ってみてください。
削りすぎたら戻せばいいだけです。
3. 音が処理されていない
意外かもしれませんが、上位です
映像は丁寧なのに、
- カットごとに声の音量が違う
- 屋外から屋内に切り替わった瞬間、環境音が急に変わる
- BGMが会話に被って、言葉が聞き取りづらい
- 語尾が切れている、または息の音が大きく残っている
これらは、戻される理由としてかなり上位に来ます。
なぜ音なのか
映像の粗は許容されても、音の粗は許容されないからです。
少しピントが甘い、少し手ブレしている——これは「味」として通ることがあります。
でも音量が急に上がると、視聴者は反射的にストレスを感じます。音は生理的だからです。
見る人が「素人が作ったな」と感じる境目は、たいてい音にあります。
そしてこれも、戻す側は言語化できません。「なんかチープ」と言われます。
どう直すか
最低限、この3つだけでも変わります。
- 全カットの声の音量を揃える(波形を見て、目視で揃うところまで)
- BGMを、会話中だけ下げる(ダッキング。手動でも構いません)
- カットの境目で環境音が飛ばないようにする(前後を少し重ねる)
派手なテクニックではありませんが、効果は色の調整の何倍もあります。
そして、ここが一番大事です:直す順番
修正点を10個もらったとき、上から順に直してはいけません。
全部直そうとすると、必ず手が止まります。
そして時間だけが溶けて、結局また戻される。
順番はこうです。
| 順位 | 直すもの | なぜこの順番か |
|---|---|---|
| 1 | 誰に向けているか | 直すと作り直しになる可能性がある |
| 2 | 構成の順番 | 尺が変わる。ここを後にすると全部やり直し |
| 3 | 音 | 印象への影響が大きいわりに、作業が独立している |
| 4 | テロップ・色 | 最後でいい。単独で直せる |
上に行くほど、直したときの影響範囲が大きい。だから上から手をつけます。
ところが実際は、4番から手をつける人が圧倒的に多いです。
理由は分かります。テロップや色は、目に見えて作業した感じがあるからです。
達成感もある。でも、一番変わらないところでもあります。
テロップを2時間かけて整えた後に「構成を変えよう」となったら、その2時間は消えます。
順番を守るのは、自分の時間を守るためでもあります。
自分でチェックするときの手順
人に見せる前に、これだけやってみてください。
-
一度、音を消して最後まで見る
→ 映像だけで話の流れが追えるか。追えないなら構成の問題です -
次に、画面を見ずに音だけ聞く
→ 音量差・BGMの被り・環境音の飛びが、驚くほど分かります -
2倍速で見る
→ 間延びしている箇所が浮かび上がります。飽きる場所は、等速でも飽きられています -
冒頭30秒だけを、誰かに見せる
→ 「これ何の動画だと思う?」と聞く。答えがズレていたら、視聴者の想定が伝わっていません
この4つは、道具も追加費用も要りません。
最後に
編集が戻されると、「センスがないのかもしれない」と思いがちです。
でも、戻される編集にはだいたい理由があります。
そしてその理由は、言語化できます。
言語化できていないのは、むしろ戻す側であることの方が多い。
だからこそ、受け取る側が構造を知っていると、圧倒的に強くなります。
「なんかもう少し」と言われたときに、
「それは視聴者の想定がズレているのか、順番の問題か、音の問題か」
と自分で切り分けられる。それができるだけで、修正の往復は激減します。
自分の作ったもので、どこが引っかかっているか分からなくなったときは、
上の順番で見直してみてください。
私は東京で会社を経営しながら、動画編集については講座という形ではなく、
お一人ずつの課題解決という形で支援しています。
これまでご一緒したのは、主婦の方のVlog、配信者の方の切り抜き動画、
法人のPR動画など、目的も規模もかなり幅があります。
共通しているのは、「何を直せばよくなるのか、自分では分からなくなっている」という状態でした。
もし今その状態でしたら、一度作ったものを見せていただければ、
どこから直すべきか、順番をつけてお返しします。

